彼女のことは、誰も知らない
その優しい口付けだけを残して
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月が出ている。
眩しいほどの黄色の満月。
その影になっている世界に男は居た。
男の手には、血塗れのナイフ。男が何か呟くと、それは音もなく溶けて地面に染みを作った。
ぱち ぱち ぱち
突然の拍手に男がゆっくりと振り返ると、月明かりの下に一人の女が居た。
紫に近い薄い桃色の身体。足の色は、闇に紛れるワインレッド。
黒の帽子をひらめかせ、女が妖艶に微笑んだ。
「誰だ」
「ただの通りすがりよ。……貴方強いのねぇ。能力者かしら? アイス?」
「それがどうした」
微笑んだまま女がすすす、と近寄ってくる。
男は警戒しつつも、その女を拒まない。
その手に触れつつ、身を寄せて囁いた。
「わたし、強い男好きなのよ。今夜、これから時間ある……?」
「時間はあるが、金はないぞ」
「いやぁね、そんなじゃないわよ」
小さくクスクスと笑いながら、彼女は路地裏へとその手を引く。
月は少し傾いていた。
男が居た影には、物言わぬ哀れなカービィが一人、その姿を月明かりにさらし始めていた。
新しく影になった路地裏で、女が優しく男に口付けする。
「んっ……」
「……ふっ、ん。っ!?」
男が突然、目を見開いた。あわてて女を引き剥がそうとするが、どういうわけか全く離れない。
その瞳が一瞬だけ恐怖に染まり、そして光を失った。
「……ん、っはぁ。コピー完了。やっぱりアイスだったみたいね」
口周りを一舐めした女の帽子は、水晶をあしらったものに変化していた。その横に男が物言わず崩れ落ちる。
再び顔を近づけた女が、笑みを含ませ囁いた。
「ごめんなさいね。あなたのキス、美味しかったわよ?」
それだけ言うと、路地裏の影から帽子を翻して一人歩き出す。
月明かりが、その水晶……いや、結晶に透き通って煌めいた。
「……あの伝説のカスタールも、吸い込み・コピーができたって話だけど、毎度こんな事してたのかしら? だとしたら大変ねぇ……」
月はいつの間にか傾いていた。
先ほどまで影だった場所には、物言わぬ哀れなカービィが二人、その姿を月明かりに晒していた。
end...
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