ステージの裏側へ、ひとつの影が駆けていく。
「スススス、スエアさんッ!」
もう随分と聞き慣れた常連客の声に、片付ける手を休めずに一同振り向く。
団員全員に注目されようと
彼の目には一人の女性しか映ってない模様。
「あ、あのっ!今日のステージもメチャクチャよかったッス!!俺、感動したッス!」
「ありがとう。クロム君」
スエアの満面の笑顔付のお礼で、再び骨抜きにされるクロム。
すると、例のごとく奴等が来る。
「ハイハーイ。裏方は大道具とかの出入りで忙しくて危ないから、気をつけてねー。」
ドガッ!!
「買Mャアッ!!」
非の打ち所の無い棒読みの台詞と共に、梯子やら水槽やら玉乗りの玉やらの入った大きな運搬用カートが突っ込んでくる。
「踊り子さんにはお手を触れないでくださーい」
同時にスエアの前に割り込んでくる双子。
「こ、このクソターバン…」
「誰がクソターバンだ。毛むくじゃら」
「ライムッ!大切なお客様に何してんの!!」
スエアの『お客様』発言に、『お客様』以上を願うクロムは撃沈。
その様子を見ながらハクレンは苦笑し、コクレンは可笑しそうに笑う。
「スエア、奥でメルヴェが会計忙しそうだったから手伝ってきたら?」
「そうね。じゃあ二人はお客様への挨拶の方、よろしくね。
クロム君、よかったらまた見に来てね」
「はいっ!スエアさんの為なら是非!!」
「五月蝿ぇ、消えろ。毛むくじゃら。」
「だれが毛むくじゃらだ!!このクソターバン!!」
「だれがクソターバンだ!!」
不毛かつ低レベルな争いを始めた二人をおいて
スエアは奥へ、コクレンとハクレンは客たちの居る出口へと向かう。
「じゃあ、ハク。俺は表の方行ってくっから。あんま目立つんじゃねーぞ」
「それはこっちのセリフ。でも、それ以上に、お客様に対して失礼な態度とっちゃだめだよ」
「わあってるって。じゃ、後でなー」
(本当に大丈夫かなぁ;;)
客達の間をスイスイと通り抜けていく黄色い影を眺めていると、
客にぶつかった。
「あ、すみません」
「………」
ぶつかった客は一体のワドルドゥだった。
そのまま、何も言わずに人込みに紛れていった。
(黒い、ワドルドゥだったな。…最近はスプレーも一般普及してきたって聞いたし、もしかしたらカーボンとか?)
そんな事を考えつつ、ハクレンは王子様スマイルで客に手を振り見送っていった。
いつもと何も変わらない日常の中
異変はすぐそこに 転がっている