紡がれる 幾多の過去






歌い手はただ 謡い続けるだけ













A m a r a n t H









 人気もなくなり、篝火も絶えた。
 青白い月明かりだけの世界で、少女が一人謡う。
 その歌は時に寂しく、時に優しく。時にはふわりと、地を離れ。


 その姿を遠目に眺めるのは、この幻想的な空間に不似合いな、
 両手にたくさんのプレゼントを抱えているハクレンである。




「(カリファもこんなに上手いんだったら、どっかの王宮専属で唄えばいいのに……。
 何もこんな貧乏サーカス団にいなくても)」




 月明かりに照らされて、異国調の歌を唄っているカリファの姿は、一見神々しくも見えた。
 歌に抑揚がついてくる。木々、草花が呼応するかのようにざわめく。
 歌は中盤にさしかかるが、ここに来て随分と経った。
 ハクレンはカリファに声を掛けようと一歩近づく。
 突然、頭に痛みが走った。




「痛っ!」




 プレゼントの山をほおり出してうずくまった。
 その声に、初めてハクレンの存在に気づいたカリファが、唄うのをやめて近づいてくる。




「ハクレン君、大丈夫? どうしたのぉ」
「あ、うん、ちょっとチクってしただけだから」




 なおも心配そうに見つめるカリファに、ハクレンは笑ってみせる。




「本当に大丈夫だよ。それより続けて? もう少し聞きたいし」
























「何してんだよ、ハク!」




 月がいくらか傾いていた。
 いつの間にか時間が経っていたことも忘れて、唄い、聞き入っていた二人は、その声に振り返る。
 そこにいたのは、コクレンとライザ。コクレンは少し怒って見え、ライザは呆れていた。




「もう、カリ姉ぇ迎えに行くだけにどれだけかかってんだよ!」
「練習熱心なのは良いことだが、あんまり遅くまで外をうろつくな。夕食にするぞ」




 その言葉に、あっと二人は顔を見合わせた。




「あ、ははは。そ、そうだったけ? ごめんコクレン」

「イザちゃん、ごめんねぇ」




 取り繕うように笑うハクレンから、荷物を半分受け取るコクレン。
 同じように、カリファがもらった大量のプレゼントを持ってあげながら、ライザがため息をつく。




「……帰るぞ」




 時計塔へ向かう4つの影を、月はただ照らしていた。









すべては始まりつつあった。






それでも月は、ただ照らし続けるだけ。


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